日常の中の非日常 [その他]
朝から暑い。それに加え山手線がかなり遅れる。
当然ホームは人であふれる。午前8時30分、新宿駅。
到着した電車の扉が開き、乗ろうとしたところをすごい勢いで後ろから押された。
つまずいて車内に膝から転んだ。その上に人が乗ってきた。
体力にも運動能力にも年にしては自信があったのに、全く動けなかった。ショックだった。
その瞬間、そばに立って吊革につかまっていた一人の若い女性が手を差し伸べてくれた。
スローモーションになった。窓から刺す朝の陽ざし、白いブラウス、真剣に手を差し伸べてくれるその表情。
いつもの通勤風景で起きた、非日常のアングル。
こちらも手を伸ばして助けを求めた。
立ち上がった瞬間、とても恥ずかしくなった。けれども小さく「ありがとうございます」とお礼を言うと
「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけてくれた。
そして彼女は次の駅で降りて行った。
うれしかった。もし自分が逆の立場だったらこんなことができただろうか。
暑い中で転んだおっさんに手を差し伸べるだろうか。いや、絶対しないだろう。
東京もまだまだ捨てたもんじゃないな。と改めて思う一日の始まりだった。
次の日。
今日も暑い。
いつも通り、ごった返す新宿駅のホーム。
いつも通り、山手線が入線してくる。停まる。そして扉が開く。
視線がクロスした。
「あっ」
「あっ」
La Fin